契約交渉にも演技力がいるんですか?
高校のとき演劇部だったので、ちょっと自信があります。
まあ、交渉に必要な能力のメインというわけでもないのですが…。
演技力が契約交渉の促進の有効な潤滑油になることも実際にあります
契約交渉における演技力
契約交渉は、生身の人間が行うものですから、契約交渉者の喜怒哀楽の感情が、出来上がった契約書の内容に反映されることがあります。
その人間の感情を動かすのに演技力が役立つ場合があります。
演技力は、ひざ詰め会議の形式で契約交渉が行われるときに限って効果が出ます。メール交信やリモート会議の形式での契約交渉の時に「演技」をしても、伝わらないし、逆効果になることもありますので、おススメできまません。
怒りの演技にしてやられた
すぎやんの企業法務実務経験の中で経験した、「怒りの演技」にしてやられた事例を紹介します。
それは、ある外資系企業との売買契約の交渉でした。契約交渉は終盤で、2日間にわたり先方の会社の会議室に缶詰めになって最終合意までもっていこうということで、交渉が行われていました。
交渉2日目の午後、それまでの交渉で契約全体がほぼ合意に至ったので、先方の事業責任者を会議室に招いて合意内容を説明しようということになりました。
にこやかに入室した先方の事業責任者が先方の契約交渉者から合意内容の説明を聞きながら、だんだんご機嫌が悪くなっているムードが出てきました。
最後の最後は「この条項のこの条件は当社では受けることはできないんじゃないか。」と語気を強めて先方の交渉担当者に詰め寄り始めました。
当方交渉チームと先方の交渉担当者の間には、それまでの1日半の交渉を通じて一種の共同体のような意識ができていましたので、当方交渉チームは先方の交渉担当者が気の毒だなという思いを頂きつつその光景を見ていました。
やがで、先方の交渉担当者は当方交渉チームに対してすまなさそうな顔をして「ちょっと退室して社内で協議してまいります。申し訳ありませんがしばらくお待ちください。」と言い残し退室していきました。
会議室に残された当方チームは唖然です。先方の事業責任者が指摘した条項は、なんとか強く交渉して当方がある程度有利に合意できた部分でした。
退出した先方チームを待つ間に、「こちらも、少し譲歩しないといけないかな。」みたいな話が当方チーム内でも出ていました。
30分ぐらいたちましたでしようか…、先方交渉担当者が会議室に戻ってきて、
「あの条項ですが、いったん合意しましたが、社内の承認が得られず、〇〇〇〇のようにまで譲歩できないでしょうか、」とすまなさそうに言います。
当方としては、その内容が、先ほど先方が退室後、当方チーム内で話をしていた譲歩の範囲内だったので、「仕方ないですね。了解です。」と即答しました。
振り返ると、あのときの先方の事業責任者の態度は演技だったのかもしれません。
別の事例では、交渉チームの中で、怒り役となだめ役を役割分担してるんじゃないかと思われるようなこともありました。
契約交渉は、感情をもつ生身の人間がやっているということを意識したうまい対処方法だと思います。
見え透いた演技は逆効果も・・・
演技力に偏りすぎて、相手方に見透かされてしまうと、その演技は逆効果になります。
また、交渉における演技作戦は、何度も繰り返し効果が出るものでもありません。
効果に自信があるとき、タイミングを見計らって、ここぞというときに一度だけ使える手段だと考えた方が良いかもしれません。
いろんな交渉のやり方があるんですね。
一種のトリックプレーであり、頻繁に使える交渉術ではないですね。
契約交渉って結局感情を持った生身の人間同士で行うものだからこそ、感情を動かす演技力が有効なことがあるんですね。