契約で、はしごをはずされるようなことってあるの?
契約相手に対して期待して当方の義務や準備行為をいろいろ実行したのに、結局、相手が期待に応えてくれず茫然。
だけど契約書はその状況を救済できる内容になっていない、というパターンです。
契約をめぐるトラブルの頻出類型の一つです。具体的に見ていきましょう。
はしごはずされリスク
はしごをはずされてしまってリスクが顕在化したケースをいくつか見ていきましょう。
- 相手が買ってくれるというので、市場で商品を仕入れて納品の準備をした。
しかし、いくら待っていてもいっこうに注文がなく、結局相手は商品を買ってくれなかった。
結果的に、当方は不要商品の在庫を抱えることになった。 - 相手が買ってくれるというので、材料を調達して相手の指定仕様の物品を製造した。
しかし、相手は何かと理由をつけて製造した物品を引き取ってくれない。
これは相手の指定仕様の物品であり、転売もできない。 - 相手が大量に買ってくれるというので、製造機械を購入して増産体制を整えた。
しかし、相手からの注文数は全く伸びず、挙句の果てに最近は注文が途絶えている。
結局、購入した製造機械が無駄な投資になりそうだ。 - 相手が当面の間当方が提供するサービスを利用してくれるというので、新たに人を雇って体制を整えた。
しかし、突然に相手の経営状況の悪化を理由にサービス契約の解除通知を受けた。
その結果、当方は余剰人員を抱えることになった。 - 相手と共同開発できることになったので、研究材料と研究員を確保して開発体制の増強をした。
しかし、開発進捗がないまま相手から市場環境の変化を理由に開発中止を一方的に通告された。
結果的に、余剰の材料と人員を抱えることになった。
被害は甚大
これらケースに陥ると生じる損害は甚大です。
場合によっては経営基盤が揺らぐほどの損害に発展する可能性もあります。
したがって、そのようなケースに陥ったとき(陥りそうなとき)には以下のような対応が必要です。
損害の拡大を防ぐための対応を検討して即実施する。(在庫や製造機械、材料の転売先を探す、代替取引先を探すなど)
相手方に現状を訴えて対処を要請する。
要請にこたえてくれないときは、裁判に訴える。
判断基準はやはり契約書の規定
はしごはずされリスクを軽減するために最も大事なのは契約書の規定です。
契約書を結んでいないと、何もリスクの判断基準がないことになり、救済される可能性は大きく下がることになります。
裁判所は、基本的に契約書に書かれている内容で適用される部分があれば、その書かれた内容に従って和解を勧めたり判決をしたりします。契約書の規定が違法なものでない限り、契約書に書かれている内容と異なる内容の和解勧奨や判決はありえません。
契約書に書かれていない場合、裁判所は当事者の主張と事実関係を確認しながら当事者の意思を明らかにして判断します。しかしその手間と労力は大変です。
したがって、はしごはずされリスクの一番の防護柵は、契約書にどう書いていくか、ということになります。
はしごはずされリスクに強い契約書にするために大事なこと
はしごを外されリスクに強い契約書にするために大事なことは、やっぱりなんといっても心がけの部分になります。以下、少し見ていきます。
冷静になる
契約締結交渉時の燃え上がる期待感から一歩引いて冷静になって契約書ドラフトを読むこと。
焦らせ戦略(明日までに契約したらこの条件です。といった戦略)にたやすく乗らないこと。
相手を信じすぎない
契約交渉時は相手は自分の良い面を見せて臨んでくるでしょう。
そのような相手に接していると、次第に相手のことを信じすぎるようになります。
まさか当方を裏切るようなことはしないだろうという思い込みが醸成され、それが契約に悪影響を生じることがあります。
ここは、相手のことを冷静に見つめて相手が自分を裏切ることを前提にリスクヘッジが取れているかという観点で契約書ドラフトを読むことが大事です。
想像力を高める
契約をめぐって起こりうる事象を想像力を高めて想定することが大事です。
しかしその創造の基盤としては契約書に書かれているビジネスに関する知識が必要です。
あえて空気を読まない
契約交渉において空気を読むことは不要です。
こんなことを言うと相手は気を悪くするかも…とか、怒り出すんじゃないか…などと考えて、せっかくシミュレーションしたはしごはずされケースについて議論せず契約をしてしまうということは、できれぱ避けたいです。
不幸にして後々そのはしごはずされケースに陥った時、あの時議論してたらなあと思ってもあとの祭りです。
なるほど。契約を読むときには若干冷めた目もいるんですね。