「損して得取れ」という格言は契約交渉でも通用しますか?
はい。双方当事者にとって良い契約書にするために必要な要素ですね。
損して得取れ
「損して得取れ」とは、「一時的に損をしたとしても、将来的に大きな利益として返ってくるようにするべきだ。」という意味の格言です。
普段の生活やビジネスでも以下のような形で頻繁に目にします。
- 新規開店時に赤字価格でサービスを提供して、それによって将来の固定顧客を獲得し利益の源にする。
- チラシに破格な目玉商品を掲載して集客し、来客人員の増加とその他の商品の購入も含めて売り上げ増を図る。
契約交渉における「損して得取れ」
契約交渉においても「損して得取れ」の格言が生きてくる場面があります。
ある条項では先方の主張を受けいれつつも、他の条項で当方の主張を受け入れてもらい、総合的に当方の利益となる契約書にするという場面です。
例えば、つぎのような例があります。
- 売買契約交渉で、売買価格では譲って、その代わり、最低購入数量を決めて、利益確保を図る。
- 業務委託契約交渉で、納期前倒しでは譲って、その代わり「特急価格」を設定して利益確保を図る。
「損して得取れ」を効果的に行うために
契約交渉で「損して得取れ」を効果的に行うためには次の3つの条件が必要です。
1.契約の全体像を把握していること。「木も森も見る」状態であること。
契約交渉で「損して得取れ」を実践するには、契約の全体像をつねに把握しておく必要があります。
契約交渉で陥りがちな、お互いが一つの条項だけに注目して、「損はしないぞ」という考えで意見をぶつけ合っている状態では、「損して得取れ」は実践できません。
一歩引いて冷静に契約の全体像を把握することによって、「ここでは損しても、こっちで得を取れば、その方が全体的にメリットがある」と気づくことができるのです。
いわゆる「木を見て森を見ず」の状態では「損して得取れ」は実践できないということです。
2.ビジネスの理解がある。経営者視点を有している。
契約交渉で効果的に「損して得取れ」を実現するには、契約対象のビジネスの理解と経営者的な視点が必要です。
つまり、契約交渉にあたる者が、深くビジネスを理解することにより、当方にとって何が「損」で、何が「得」かを理解しないといけませんし、経営者の視点をもって、その取捨を判断しないといけません。
その意味では、法務部門や社外弁護士に契約交渉を丸投げすることは良策ではないといえます。
それは法務部門や社外弁護士はビジネスの深い部分の理解を持ち合わせていませんし、そもそも当該会社の経営者でもないからです。
交渉チームにはビジネスに関わっている者と経営者視点を理解している者の参画が不可欠です。
3.相手方の立場に立ち、相手方の心理を読む
契約交渉で「損して得取れ」を実践するには、相手方の心理を読む力が必要です。
それは「損して得取れ」の提案をしたときに相手方に受け入れられるかどうかという形であらわれます。
「損して得取れ」の提案が相手方に受け入れられるためには、当方にとって「損」である部分が相手方にとって「得」であることと、当方にとって「得」である部分が相手方にとってはそれほど「損」ではないことが必要です。一種の相対的な対価性が必要です。
当方の提案が相手方にとってどう受け取られるかを、相手方の立場になって考える力が、「損して得取れ」の提案を成功させるための大きなポイントです。
なるほどね。いわゆる「バランス感覚」の問題のような気がします。