「この限りではない」と「妨げない」 契約書以外ではあまり使わない表現について

契約書の基礎
どてらいさん
どてらいさん

どちらもたしかに、堅ぐるしい表現ですね。

すぎやん
すぎやん

普段あまり使わない表現ですが、契約書起案者の中にはこういったマニアックな表現を使いたがる人もいるんですよ。

「この限りではない」

この限りでない」というのは、前に出ている規定の全部または一部の適用をある特定の場合打ち消したり除外するときに使います。いわゆる、「ただし書き」の末尾に使用されることが多いです。
条文サンプルを見てみます。

第_条(機密の保持)
乙は、本件業務に関して知り得た甲の情報及び成果物の一切についてこれを公開若しくは第三者に漏洩してはならない。 ただし、甲の書面による承諾のある場合はこの限りではない

上の例でいうと、甲の書面承諾があれば、公開や第三者漏洩の禁止は適用されないということになります。
しかし注意しないといけないのは、ここでは、「書面承諾さえあれば、積極的に公開や漏洩をし放題」というわけではないということです。多くの場合、承諾書面の中で、許される開示範囲の限定などの条件が付いていると考えられます。

微妙ですが、このニュアンスだけはちょっと頭の片隅に置いておいた方が良いと思います。

「妨げない」

妨げない」というのは、ある事項について一定の規定の適用があるかどうかはっきりしない場合に、その適用が排除されるものでないことを示すときに用いられることが多いです。条文サンプルを見てみます。

本条第1項により本契約が終了した場合、甲または乙は相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。

ここでは、契約が終了したら、損害賠償請求をして良いかどうかはっきりしないので、請求しても良いという趣旨です。
つまり、「損害賠償請求をしてもしなくても構わないよ。別に禁止していないし。」というニュアンスです。

実際の契約書で「この限りではない」とか「妨げない」を使うか。

見てきたように、「この限りではない」も「妨げない」も積極的な決まり事を規定するときには使いにくい表現です。
また、これらの言葉を他の言葉に置き換えて明確に記述することが可能な場合、下記例のように、できるだけこれらの曖昧な表現を使わない方が良いかもしれません。

本条第1項により本契約が終了した場合、甲または乙は相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。

(書き換え例その1)
本条第1項により本契約が終了した場合、甲または乙は相手方に対して損害賠償の請求ができる。

(書き換え例その2)
本条第1項により本契約が終了した場合、甲または乙は相手方が被った損害を賠償しなければならない。

しかし、明確に書こうとすると、直接的な表現になり相手方との交渉が困難になる場合もあるかもしれません。したがって、条文の位置付けを考えながら、「この限りではない」とか「妨げない」の表現を活用していただければ良いかと思います。

どてらいさん
どてらいさん

なるほど、こういった馴染みの少ない表現でも、使って便利だから契約書には用いられるわけですね。

すぎやん
すぎやん

「この限りではない」も「妨げない」も、若干論点ぼやかし系の表現ではありますが、ケースバイケースでうまく使えばよい表現だと思います。