「無効」、「取消」、「撤回」それぞれの違いについて

契約書の基礎
どてらいさん
どてらいさん

「無効」に「取消」に「撤回」。どれもおんなじような感じがしますね。

すぎやん
すぎやん

実はそれぞれの言葉には違いがありまして…。ちょっと確認しておいた方が良いかもしれませんね。

「無効」

「無効」は、法律行為や意思表示があったものの、その有効要件を満たさないため最初から効果を生じない状態をいいます。

したがって「無効」は、初めから何もない、もともと効果がない、という意味であり、一応有効に成立したものを遡及的になかったことにする「取消」(次に述べます)とは区別されます

民法第90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

労働基準法第13条
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。

第〇条(分離性)
甲及び乙は、本契約のいずれかの条項又はその一部が法令により無効となった場合、無効になった部分に限って本契約から削除されたものとみなす。

「取消」

「取消」は、すでに効力を生じている意思表示について、そのなされた過程に問題があることを理由としてそれを遡及的に消滅させる意思表示をいいます。一旦効力が生じたことを最初に遡って消滅させるのが「取消」で、そもそも最初から効力が生じていない「無効」とは区別されます。

いったんなされた意思表示を後から取り消すことを無制限に許容することは好ましくないので、取消原因は、民法上では、未成年等の制限能力、詐欺・強迫による意思表示の場合に限られています。「取消」の意思表示をなすことを取消権の行使といいます。

民法第96条(詐欺又は強迫)第1項
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる

「撤回」

「撤回」とは、意思表示をした者が一方的にその効果を将来に向かって消滅させることをいいます。将来に向かって消滅させるという点で「取消」と異なります。

甲は、乙が第三者に本業務の全部又は一部を再委託することを承諾したときであっても、その後当該第三者を本業務の受託者として適格でないと認めたときは、その理由を乙に対して明示したうえ、いつでもその承諾を撤回することができる。

⇒上記上文例では、起案者は、ここで「取消することができる」として、いったん承諾した時点に遡って消滅させると影響が大きくなりすぎるので、将来に向けて消滅させる「撤回することができる」を使用していると思われます。

なお、行政行為においては、このような分別に正確に対応していないことがあります。
例えば、違反累積点数超過による運転免許の取消し処分。正確には免許取得してから違反累積点数が超過するまでは運転免許は有効だと考えられます。したがって本来は将来に向けてだけ効果がある「撤回」がふさわしいと思われますが、「取消し」を使っています。
ちょっと頭の片隅に。

どてらいさん
どてらいさん

政治家が不適切発言の謝罪会見で、「発言を取消します。」ではなく「撤回します。」と言っているのは、この使い分けがあるのかな?

すぎやん
すぎやん

そこまで深く考えてないかもしれませんが、確かに最初は自分の政治家としての真意として行った発言を、あとになっていろいろ叩かれたから消滅させるわけですから、「撤回」が正しいかもしれませんね。