秘密保持契約主要条項4 秘密情報の定義 

秘密保持契約の主要条項

秘密保持契約の主要条項解説シリーズ第4回は、秘密情報の定義です。秘密保持義務の対象となる秘密情報を定義します。秘密である旨の表示など、開示手段別に秘密情報の特定方法を定めます

秘密情報の定義規定のサンプル

本契約において秘密情報とは、以下のものをいう。
(1) 相手方から開示・提供を受けた情報のうち次の①から⑤の一に該当するもの
 ① 書面または試作品等の有体物により開示・提供される場合は、秘密である旨の表示 があるもの
 ② 電磁的記録化された情報として、記録媒体により開示・提供される場合は、当該記録媒体に秘密である旨の表示を付したうえ、当該情報を情報機器で画面表示する等可視性のある状態にした際に、当該情報が秘密である旨の表示があるもの
 ③ 電磁的記録化された情報として、電子メール等により開示・提供される場合は、当該情報を情報機器で画面表示する等可視性のある状態にした際に、当該情報が秘密である旨の表示があるもの
 ④ 電磁的記録化された情報として開示・提供される場合で、秘密である旨の表示を付すことが性質上できないときは、開示・提供の際に書面または電子メールのいずれかにより秘密である旨を明示されたもの
 ⑤ 口頭または映像等の視覚的手段、その他秘密である旨の表示を付すことが性質上できない手段によって開示・提供される場合は、開示・提供の際に秘密である旨を明示されたもの。ただし、情報の概要が記載され、かつ秘密である旨の表示がされた書面が、15日以内に交付された場合に限る。
(2)  本契約の存在および条件ならびに本検討の内容

秘密保持契約を締結した当事者は、様々な手段を通じて秘密情報のコミュニケーションが行なわれます。
そこで数多くやり取りされる情報の中で、どの情報を秘密保持契約で定められた方法で取り扱うべきかを特定することが重要になってきます。

「全部の情報を秘密として取り扱えばいいじゃないか」という考え方もありますが、全部となると情報管理の負担が大きくなることから、秘密情報を特定して限定することが一般的です。

秘密情報の定義規定の内容

秘密情報の開示手段別に秘密情報の特定方法を規定します。
また、実際に開示する情報以外に一部の関連情報(秘密保持契約締結の事実など)を秘密情報に含めると規定する場合も多いです。

書面で開示する場合/試作品など物品の形で開示する場合

書面や物品に秘密である旨の表示をしたものが秘密情報とされます。資料の欄外にマル秘やCONFIDENTIALと記載されていたり、ゴム印が押されているのを見かけたことがあると思いますが、それが秘密である旨の表示です。

電子メールや電子媒体を通じてデータの形で開示する場合

電子メールをディスプレイに表示したときに秘密である旨の表示をしたものが秘密情報とされます。CD-ROMやSDなどの電子媒体で開示する場合はその媒体にも秘密である旨の表示をします。データ自体にパスワードをかけることも多いです。

打合せや会議時などに口頭や視覚的に開示する場合

音声など視聴覚的情報その他秘密である旨の表示が困難な場合は、開示時に秘密である旨を伝えるとともに、開示後に情報を書面化して交付するというステップを付加します。

具体的には、「今からお話しすることは(お見せすることは)秘密情報です」と告げたうえで開示して、のちにそれを書面化して開示先に交付したものが秘密情報とされます。書面は、開示の日から○日以内に書面交付と期限をつける方が良いです。(上記サンプル条文では、開示から15日以内と規定されています。)

契約内容および契約締結の事実も秘密情報の場合もある。

契約書の内容自体が秘密情報である。あるいは、
契約締結の事実が秘密情報である場合もあります。
前者について、
秘密保持契約の条文のなかに、秘密情報として扱われるべき情報が含まれている場合も多いです。特に、秘密情報の開示目的を規定する条項については、秘密情報そのものである場合も多々あります。
また後者について、
誰かと誰かが秘密保持契約を締結して情報交換を行っているという事実自体が関連業界の第三者にとっては少なからず影響がある情報である場合も多いです。
従って、多くの秘密保持契約では、相互に開示提供される情報以外に、契約内容および契約締結の事実も秘密情報として取り扱う旨が規定されている場合が多いです。

秘密情報の定義規定のチェックポイント

秘密情報の定義規定のポイントで最も重要なのが、実務的に規定内容を確実に実行できるかという点です。書類等への秘密である旨の表示、秘密情報を口頭開示した会議後の会議議事録の発行などが、実務的な基本動作として確実に実行できるか、確認する必要があります。

規定内容が実務的に実行できるかという点のほか、秘密情報の定義規定では、以下のような点が論点になりえます。

(1)秘密情報から派生した情報をどうとりあつかうか。
(2)特定しなくても常識的に秘密だとわかる。
(3)いちいち特定表示しなくてもすべての情報を秘密として取り扱え。
(4)契約締結前に開示した情報のなかにも秘密扱いしてほしいものがある。

秘密情報から派生した情報をどうとりあつかうか。

派生情報(データ)、すなわち開示された秘密情報(データ)を加工、分析、編集等した結果の情報(データ)も秘密情報に含めたいという要請がある場合もあります。
そのような場合はケースバイケースで実態に即して判断することになりますが、その要請には妥当性があると考えられる場合が多いです。

特定していなくても常識的に秘密だとわかる。

たまに、秘密である旨の表示がされていない場合であっても、常識的に考えて秘密にあたると考えられるものは秘密として取り扱う、という趣旨の条項が提案される場合があります(下記条文サンプル)。秘密表示をするのを忘れた時に備えるとか、秘密表示をする事務的手続きを軽減したいという考え方からの提案だと考えられます。

上記以外に、社会的通念および一般的な業界認識に照らして秘密と考えられる情報は秘密情報として取り扱うものとする。

しかし、このような規定にすると、管理するべき対象の情報が大変曖昧になってしまいす、後の漏らした漏らしていないという紛争の種になりかねません。したがって、特別な事情がない限り、認めるべきではない提案だと考えます。

いちいち特定表示しなくてもすべての情報を秘密として取り扱え。

開示者にとって、相手方に対して秘密保持義務を課す情報の範囲をなるべくあいまいに広く設定しておいた方がいいだろうという考えのもと、秘密保持契約の中で秘密である旨の表示をすることを規定しない例も確かにあります。
そうなると開示者内部的にも情報管理の視点があいまいになり、客観的に本来秘密情報として扱われるべき情報をそのように扱わなくなりったり、不正競争防止法上の営業秘密の秘密管理性の要件を満たさなくなるおそれも出てきます。
従って、開示者にとっても秘密情報の特定というのは意味あるものだと考えます。

契約締結前に開示した情報にも秘密扱いしてほしいものがある。

もちろん、秘密保持契約が締結されてから、秘密情報のやりとりを開始するのが原則です。
しかし、実際には、秘密保持契約が締結される前に開示した情報も秘密情報の定義に含めたい場合もあります。
そのような場合に、秘密情報の定義規定に、
本契約締結の前後を問わず。。。開示した。。。」
との文言を入れる場合もあります。

しかしこれはちょっと危険です。極論言えば思ってもいない昔に開示を受けた情報も秘密として扱えと今となって言われる状態になりかねないからです。
やはり、最初に秘密情報を開示した日を特定して契約書に規定するべきです。

どてらいさん
どてらいさん

自社における情報管理システムとの整合性もチェックしないといけない重要条項だと思いました。

すぎやん事務所
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