契約交渉で行き詰まって、条項を削除したり、別途協議にしたりするのは、やっぱりよくないですよね。
確かに積極的にやるべきではないですが、究極の選択肢としてはあり得るかもしれません。
削除や別途協議で逃げるとは
契約交渉で両者の主張がなかなか折り合わず膠着状態になったときに、一方の当事者がしびれを切らして、
「では、この条項は契約から削除しましょうか。」とか
「ここは別途協議という形にしておきましょうか。」
と提案されることがあります。
例えば、別途協議というのは以下のような条文変更を言います。
【乙が主張する条文】
「甲が乙に対する支払いを遅延したときは、甲は乙に遅延一日当たり3000円の損害金を支払うものとする。」
【甲が主張する条文】
「甲が乙に対する支払いを遅延したときは、甲は乙に遅延一日当たり300円の損害金を支払うものとする。」
【別途協議で逃げる条文】
「甲が乙に対する支払いを遅延したときは、別途甲乙協議して定める損害金を甲は乙に支払うものとする。」
削除や別途協議は契約していないのと同じこと
上記サンプル条文をご覧になればわかるように、削除や別途協議というのは、結局のところ契約書に何も決めていないのと同じことになります。
したがって本当に事が起きたとき(上記例でいうと甲の支払い遅延が生じたとき)に、両当事者が冷静に対等な立場で協議できるか(上記例でいうと適正な損害金額を合意できるか)といえば、ほぼ無理そうだということは誰にでも想像できると思います。おそらくその時には激しい紛争になって、場合によっては裁判沙汰になることも想定されます。
契約書締結の目的として「あとの喧嘩を先にする。」というものがあることは別項でご説明しました。その意味では、削除や別途協議というのは、「喧嘩の先延ばし」の典型例であり、契約書を締結する目的にかなっていないとみなされても仕方がないといえましょう。
削除や別途協議というのは、本当はやるべきではない。
契約書で合意できることはすべて契約交渉で合意を目指してとことん議論して、契約書に記載するのがベストです。
削除や別途協議が有効な場合も・・・あります。
削除や別途協議にするのは、契約書を締結する意味を失わせる意味合いを持ち、本来やるべきではありません。
しかし、これから述べる限定的な場合に、奥の手(秘策)として有効な場合もあるとすぎやんは考えます。
もちろん契約書の条文の大半を削除したり別途協議とするのは得策ではないということはおわかりいただけると思いますが、以下のような限定的な場合には、膠着した契約交渉を前に進めるために有効な場合もあると考えます。
- あまりにも当方にとって不利な条件を、取引上の力関係を背景に押し込まれそうな情勢のとき
- 法律の規定や業界慣習の方が、対象の条項の現状条件よりも当方にとって好ましい内容であるとき
- 対象条項の適用条件の発動可能性が極めて低いとき
以下、それぞれについて少し考察します。
あまりにも当方にとって不利な内容を、取引上の力関係を背景に押し込まれそうな情勢のとき
このケースは現実的には多いと思われます。圧倒的に不利な条件を契約書で明文化するよりも、ことがおこったときに別途協議する方がましだという考え方です。もちろん、問題先送り型の消極対応であり、ことが起こったときの協議で勝てる保証はないものの、とにかく契約書をまとめてビジネスを始めることがビジネス的に有効な場合もあります。
法律の規定や業界慣習の方が、対象の条項の現状条件よりも当方にとって好ましい内容であるとき
取引上で紛争が生じて裁判沙汰になった場合には、裁判所はまず当事者間の契約にどう書いているか確認します。
契約書に規定がないときには、両当事者がどのような意思をもって取引をしていたのか、法律の規定ではどうなっているのか、業界慣習や取引慣習ではどうなっているか、などを考慮して解決を図っていきます。
つまり、すべてに優先するのは契約書の条文です。したがって、あまりにも不利な条件であれば、契約書に書いていない方がましだとという究極の判断です。
対象条項の適用条件の発動可能性が極めて低いとき
これは、「〇〇〇の場合、〇〇〇する。」という条項で、「〇〇〇の場合」が実際に発生する可能性が、確率的に非常に低い場合を意味します。
発生しない可能性の高いケースについて時間をかけて議論をするのは無駄だろうという考えから、このような場合に削除や別途協議にしておくのが有効な場合もあります。
もちろんこれも問題先送りの対応であり、積極的におすすめするものではありません。
問題先延ばし策が功を奏する場合もないことはないということですね。
そう。ないことはないのです。