相手が契約を守ってくれないのですけど、損害賠償を請求できますよね。
それはそうですが、それでよかったのかなぁ・・・。
契約書を守ってくれないときは
契約相手が契約を履行しない(=守ってくれない)ときに当方が取れる手段としては次のようなことがあります。
- 契約の規定に基づき損害賠償請求する。
- 代わりにやってくれる人を探して、その人にやってもらう。
- 自分がかわりにやる
- 裁判所に訴えて法律の力で強制的に履行させる。
いずれにも共通するのは、契約締結時点で契約相手がやってくれると期待していたことが実現できず、手間と時間と場合によっては余計に費用がかかる別の手段をとらないといけないということです。
契約を結ぶ目的に立ち返る
ここで考えたいのが、契約を結ぶ目的は何かということです。
契約を結ぶ究極の目的は、
「契約書に書いていることをお互いの当事者が守って、契約書に書かれているビジネスや取引を成功裏に実現する」
ということのはずです。決して、相手方から損害賠償金を多く勝ち取ることがが目的ではないはずです。
すぎやんは、企業法務時代に尊敬する先輩からこういう指導を受けたことがありました。
「契約書って相手に守ってもらうことにこそ意味があるんだよ。きつい契約書を作って、相手に守ってもらえないということになると、結局は損だよ。きつい契約作るというのではなく、守ってもらえる、守らせる契約をつくろう。」
当時は、
「何とか厳しくて有利な契約にしたい」、
「違反したときに少しでも多くの賠償金を勝ち取るような内容にしたい」
という思いが勝っていた私をたしなめる指導だった思います。
契約を破る自由
日本的感覚からはちょっと理解しがたいところもあるんですが、「契約を破る自由」というものがあります。
「なにそれ。契約って守らないといけないでしょ。契約を破ったら相手に迷惑がかかるし、業界の中で悪いうわさもたつし・・・。」と普通は考えますね。
この考え方と正反対の考え方が「契約をを破る自由」です。
「契約を守るよりも契約を破ったほうが得なら、当然破る。それも自由である。」という考え方です。ある意味とても合理的な考え方です。
具体例を見ましょう。
契約書に以下の定めがあったとします。
- 甲は、乙に対し、甲保有の中古機械Aを対価100,000円で販売する。
- 甲は、前項に違背したときは、違約金として対価の半額50,000円を支払う。
ところが、契約締結時点から納期までの間に、中古機械Aと同種の機械製品の市場供給が極度にひっ迫し、市場価格が高騰しました。
そんな中、納期直前に、甲のもとに、第三者丙が「御社が保有する中古機械Aを売ってほしい。見積り価格を出してくれ。」といってきました。
このような場合、甲はどう判断するでしょう・・・・
普通は、中古機械Aは乙に売る契約をしているので、「すいません。これ売約済みでして、ごめんなさい」と丙の申し出を断るでしょう。契約は守らないといけないいう倫理観からの考え方です。
ただ別の考え方もできます。
それは、丙に対して、「200,000円なら売りますよ。」という提案をすることです。
乙との契約を破って違約金を払うより、丙にその値段で売った方が得だから、乙との契約を破ろうという考え方です。
とくに外国系企業はその考え方があります。契約を破ることにあまり負い目がありません。とても合理的な考え方です。
一方、この事例において、乙としては、違約金をゲットできてラッキーでしょうか?
そうとも限らないですね。甲から買うはずだった機械の代替の機械を探す手間とか、代替品が見つかったとしても価格が高かったりと、決して結果はハッピーではないはずです。
契約は守ってもらってなんぼ
以上のようなことから、契約書を作るときには「守れる契約、守らせる契約」にするよう、知恵を絞っていくことがとても大事たと思います。
契約交渉のときは得てして契約違反のときの賠償金を少しでも多く獲得できるようにと情熱をこめて交渉してしまいがちです。
しかし、それよりも大事な点、つまり「当事者が喜んで契約を守る気になる内容になっているか」という観点で検証することも見失ってはいけません。
たしかに。契約は守ってなんぼですよね。