不可抗力免責条項ってよく聞くけどなんですか?
地震や台風、水害、疫病の流行などが原因で契約を守ることができないときには責任を免れるという条項です。
契約書につきものの条項ですが、よく見ないと落とし穴があることもあります。
不可抗力とは
不可抗力とは、文字どおり「抗う(あらがう)ことができない力」であり、「自分ではコントロールできない事情」と言い換えることができるでしょう。契約の中にもしばしば見かけます。
具体的な契約の文言としては大きく天災系と人災系に2分できて、以下のようなものがあります。
天災系:天変地異、地震、津波、暴風雨、洪水、台風、感染症の流行、疫病
人災系:火災、爆発、戦争、内乱、暴動、法令の制定または改廃、出入港禁止、裁判所または行政機関の指示、命令による命令処分、争議行為、輸送機関の事故、ロックアウト、ストライキ、原油価格の急騰、素材・原料の枯渇、下請先・原料メーカーの倒産・生産中止
そして、このような事象を列挙したあとに
「その他の不可抗力または不可抗力に準じた当事者の責に帰することのできない事由」、
「その他当事者が制御できない偶発的事象」
などと、全体をキャッチアップする文言を入れている場合が多いです。
不可抗力免責条項とは
不可抗力免責条項とは、前記のような不可抗力が原因で、契約に規定する義務を履行できないとき(=契約違反にしたとき)であっても、契約違反の責任は問われないという趣旨の条項です。
不可効力条項は多くの契約に入っています。
「地震が原因で契約通りに納品できなかったら、まあ仕方ないよね。」という趣旨です。
「この条項が契約書にあったおかげで助かった。」という思いをすることが多々ありますが、場合によっては責任逃れの口実になり得るという一面もあるので、やはり注意深く検討する必要があります。
不可抗力免責条項を検討するときのポイント
不可抗力免責条項はだいたい契約書の後半から終盤に入っています。
「地震、火災、水害… 」と始まっているので、その辺まで見て、「あーこれ不可抗力条項ね。問題なでしょう。」ということで飛ばして次の条項に行くことがあると思います。
とくに、とても長編の契約書の場合だとそこまで読み進める中で体力を使っているので、飛ばし読みの危険も高まりがちです。でもちょっと待ってください。この不可抗力条項にも落とし穴が仕組まれていることがあります。
もし疲れているなら、コーヒーでも淹れて腰を据えてじっくり読み込む方がいいです。
不可抗力条項の主な検討ポイントは次の4つです。
1. 不可抗力の定義は明確か?
たまに以下のような条文に出くわすことがあります。
不可抗力により甲が商品の納入を遅延した場合、甲はその責めを負わないものとする。
この場合、ある事象が「不可抗力」に該当するかどうかでもめる可能性が高いです。
契約違反になってしまった当事者側からすると、「これは不可抗力でどうしようもなかった、」と主張するし、
もう一方の当事者は、「そんな事象は予測もできるし、回避策があったはずだ。」と主張することになるでしょう。
そのようにならないために、不可抗力の定義に関しては、具体的に例示して明確に規定しておくことが大事です。
2. 列記された事象が本当に不可抗力にあたるか?
上記に列挙した天災型と人災型の不可抗力例をもう一度確認してみてください。
英文契約の翻訳のような文言もありますが、それらのいくつかについては、契約における立場や周辺状況によってはクエスチョンマークがつくものがあります。
例えば、ロックアウト、ストライキ、原油価格の急騰、素材・原料の枯渇、下請先・原料メーカーの倒産・生産中止などは、一方の当事者にとってはクエスチョンマークの対象になりえます。
それは本当に予測できないのか、回避策は考えられないのか、といった議論の余地はあります。
3. 不可抗力と契約違反の因果関係はあるか?
不可抗力と契約違反の因果関係はあるかという論点があります。
民法第419条3項は「(金銭の給付を目的とする債務の不履行についての)損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。」と規定されています。
これは「不可抗力があったとしてもお金は払えるでしょ。」という趣旨です。
この民法の規定は任意規定であり、契約当事者がこれと異なる契約をした場合そちらが優先適用されます。
しかし、実際の問題として、不可抗力と定義される事象が発生したとしても。契約を履行するための努力は尽くすべきであり、その努力をもってしても契約を守れなかったということまで要求されます。このような趣旨を契約に織り込んでおくことも考慮の余地があります。
4. 不可抗力状態は永久に続くの?
「不可抗力の場合は免責される。」で終わってしまっていいかという点も検討が必要でしょう。
不可抗力事象の中には、一定の時期が来れば解消されるものもあります。むしろそのようなものが多いかもしれません。
そこで重要なのが、不可抗力事象が解消されたらその後どうするかという点です。
遅れてもいいので契約を再開するか、遅れて再開しても意味がないので、契約解除するか、などと取引の内容によって様々です。
したがって、あらかじめ契約書上に不可抗力事象の出口戦略を具体的に規定をしておくことが大事な場合もあります。
なるほど、不可抗力条項一つとっても、いろいろな論点があるんですね。