契約って絶対守らないといけないですよね。
契約を破る自由って意味わからないんですけど・・・。
普通の感覚では「結んだ契約は守らないといけない。契約を破ると相手方から損害賠償請求を受けるし、社会的な制裁を受ける。」と考えるでしょう。しかし・・・
契約を破る自由
「契約を破る自由。」聞きなれない言葉だと思います。
また、「契約を破る(契約違反)」という語と「自由」という語はつながりにくいので違和感を持つ方も多いと思います。
でも実は、この契約を破る自由という考え方は権利として歴然と存在していて、これを平然と行使される場合があります。
契約を破ると・・・
契約を破るとどうなりますか?
契約を破ると、契約の規定に従って、違約金を請求されたり、相手方から損害賠償の請求を受けることになるでしょう。
また、「あの人(会社)は契約違反を犯した悪いヤツ」というレッテルが貼られて負の風評が生じることもあるでしょう。
普通の感覚では、これらはマイナスの効果ととらえて、違約金とか損害賠償の請求を受けたら大変だ。負の風評を生じさせてはいけない。と考えるでしよう。
しかし、よーく考えたら、違約金や損害を支払いさえすれば、または風評被害も呑み込めるリスクととらえるなら、契約を破ってもいいわけです。
一方、契約を破ることによって得られるプラスの効果を考えて見ましょう。
これは、「破る契約の条件よりも自己にとって有利な条件で他の相手先と契約ができる。」ということにつきるでしょう。
契約を破る自由の神髄
「契約を破る自由」とは、契約を破ったことによるマイナス面とプラス面を天秤にかけて、プラス面の方が大きければ、契約を破る自由がある、という考え方です。
事例で考えてみましょう。
A氏は中古車販売店の経営者です。 店頭に100万円の値札をつけて陳列していた中古車がありました。 陳列をはじめて3か月以上経ちますがなかなか買い手が付きません。
ちょっと値下げしないといけないなと考え始めたある日、通りがかりの男X氏が、A氏に声を掛けました。
「あの車、80万にしてくれたらすぐ買いたいんですけど。無理ですかね。」
A氏は少し悩みましたが、これ以上滞留在庫にするわけにいかないし、少しくらい値下げしてでも売りさばきたいと思っていたところだったので、利益は減るがここは売った方が得だと考えて、次のような契約を提案しました。
- 販売価格は80万円とする。納車日は契約日の2週間後とする。
- X氏は、契約時に手付金として30万円支払う。残額50万円は納車時に支払う。
- 納車までにX氏が契約解除したら手付金は放棄するものとし、A氏が契約解除したら違約金30万円を加えて60万円をXに支払う。
(話を簡略にするため、自動車登録費用や税金等について考慮していません)
X氏は即時にその提案に同意し、その場で契約書にサインをして、手付金もその日のうちに振り込まれました。
納車の整備準備のために、店頭のその車には「売約済」と張り紙をして陳列したままにしていました。
X氏と契約して5日後、別の男Y氏がA氏に声を掛けました。
「あの店頭の「売約済」って書いている車ですが、私の死んだ父が乗っていた車と同型式のようで、ずっと中古車屋を探していたんです。張り紙の下には100万って書いてあるようだけど、150万くらいまでだったら出せますけど、無理ですよね」
A氏は悩みました。答えの選択肢は次の二つです。
①「ごめんなさい。悪いけどあの車は売約済みなんです。」 と断る。
② X氏との契約を破って、Y氏と契約する。
あなたはA氏だとして、どちらを選択されますか?
おそらく、契約を破ることに罪悪感やうしろめたさを感じる人は①を選択するでしょう。 断ったうえで、同型式の車を同業の仲間に聞いて探すとか、型式は違うものの同じ価格帯の在庫の中古車を探して提案するかでしょう。
しかし、契約を破る自由の感覚が身についている人であれば、下記の計算をして、迷わず②を選択するでしょう。
Y氏の申し出を断ってこのままX氏に売ると、収益は売買価格80万円。
X氏との契約を破ってY氏に売ると、
(売買価格150万円)-(X氏への手付返金30万円)-(違約金30万円)=90万円。
Y氏と契約する方が10万円(ないし40万円)の得です(手付返金30万円も受け取ってすぐの返金ですから損ではないとも考えうる)。
この選択は、ある意味では、X氏は車を再び探さないといけないが、何もしないで30万円を手に入れる。
Y氏は探していた亡き父と同型の車が手に入る。
A氏は10万円(40万円)の増収。
ということで、三者三様にハッピーなのかもしれません。
日本人の契約観、海外(特に欧米)の人の契約観
あくまでもすぎやんの個人的な意見ですが、日本人(日本企業)は以下のような契約観を持っていると私は感じています。
- 人間的な関係性、慣行を重視し、契約書は形式的なものである。
- しかし、いったん契約書の形で結んだら、絶対に破ってはいけない。
- 契約を破ったり、契約違反をすることは、罪悪である。
- 契約違反をして契約相手に迷惑をかけてしまうのは忍びない。
- 契約違反を繰り返す人(会社)は信用できない。
一方、海外の人(企業)は、もちろん契約は大事だし、守らないと罰を受けるという感覚は当然ありますが、ある意味非常にドライであり、罰を受けるつもりなら、契約を破ってもいいじゃないか。なにもうしろめたさなんか感じない。と考えているように私は感じます。
どちらがいいとか悪いとかはないと思います。
ただしビジネスの世界はドライに損得勘定で契約関係をとらえるというのが、どちらかといえばスタンダードであるように感じます。
契約を破る自由を行使するかしないかの判断は、経営の醍醐味のような気がします。