契約を意識しなくなってきてあぶない

あぶない契約書
どてらいさん
どてらいさん

正直、毎日ビジネスを頑張ってる中で契約書のことを考えることはあまりないですね。

すぎやん
すぎやん

ほとんどの人がそうですよ。契約書を意識しなくても別に問題ないですからね。

でもそれがちょっとあぶないんですよ。

あんなに苦労して交渉して締結した契約書でも、時間の経過とともに日々のビジネスのなかで埋もれていってしまう。

そもそも、普段のビジネスの中で契約書のことを意識することはほとんどないと思います。
あれほど苦労して、時には激しく議論して締結した契約書なのに、なぜ意識しなくなるのでしょう。

その理由は要するに、普段のビジネスがうまくいっていて、相手方ともめていないからです。

契約書を締結してビジネスが開始した当初は契約書を意識していると思います。しかし、ビジネスが両当事者にとってうまくいっている間に、だんだん契約書のことは意識しなくなっていき、契約書はファイルに綴じられロッカーの奥にしまわれて、参照することもなくなってきます。大体そんな感じだと思います。

つぎに起きるのが、契約書の規定と現実の実務との乖離。

そのように順調に進んでいるビジネスのなかで、契約書の規定とビジネスの実態が乖離していくことがあります。

例えば、
契約書に「請求書発行後30日以内に支払う」と書いてあるのに、実態は「請求書の発行月の翌月末日支払い(30日を超えている)」になっている。
契約書に「納期遅延があったら、一日当たり1000円の遅延損害金を支払う」と書いてあるのに、実態は、1週間程度の遅延であればあらかじめ連絡を受けていたら遅延損害金は請求しない。
といった乖離です。

かりに記憶している契約書の条件と違うということに気づいても、実態として実害が生じていない、あるいは実害が軽微でコストとして吸収できる場合は、改めて契約書の規定を確認したり、相手方に対して指摘したりすることもなく、乖離した実態を放置します。
むしろそのような契約書の規定との乖離をいちいち指摘すると、当事者間の友好なビジネス関係を傷つけるという思いもあり、そういった指摘は控えることが多いと思います。

そしてやがてその乖離した実態が長期間何度もくりかえされると、その契約書の規定と乖離した実態が既成事実と化してしまいます。それでも、ビジネスが順調な間は何も問題が起きません。

しかし、時の流れとともに様々な要因でそのような順調なビジネス関係にもほころびが出ることがあります。
そんな時に、威力を発揮するのが契約書の中にひっそり存在しているある条項です。

Waver(権利放棄)条項

国際契約ではしばしば「Waver(権利放棄)条項」(あるいはNo-Waver(権利非放棄)条項)という条項がはいっていることがあります。

【権利放棄条項のサンプル(訳文)】

当事者の一方による本契約に基づく権利、権限、または救済についての不行使または行使の遅れは、その権利、権限または救済の放棄を意味するものではなく、また、かかる権利、権限または救済の一部だけの行使は、その権利、権限または救済の別の行使もしくはさらなる行使または本契約に基づく別の権利の行使を妨げるものではない。

訳文ですのでややこしい表現になっていますが、趣旨としては、「一度相手方の契約違反について損害賠償請求権を行使しなかったからと言って、永久にその請求権を放棄したわけではない。(次やったら請求するかもしれませんよ)」という趣旨です。

契約書の規定と実態との乖離が既成事実化するのを回避する趣旨の条項です。

この条項は国際契約によくある条項で、日本企業同士の契約で入っていることは少ないですが、だからといって権利放棄条項が入っていなければ契約違反の既成事実化が当然成立するのかといえばそうではないと考えられます。

当事者間のビジネス関係にほころびが生じ、それが大きなトラブルになると、契約書を取り出して相手方の契約違反などないかと確認をします。その結果見つけた相手方の過去の契約違反について、この権利放棄条項を根拠に損害賠償請求をすることもあり得ます。
実際には、その損害賠償請求が訴訟にまで発展したときには、裁判所は、当事者の力関係や様々な要素を考慮したうえで、力が弱い立場の者による過去の細かい契約違反を既成事実ととらえて責任を軽減するような判断をする可能性はあると思われます。

しかし、契約の規定と実際のビジネスとのずれが紛争の火種になり得ることには変わりがありません。

契約書のメンテナンス

そこで、提案したいのが契約書のメンテナンスです。

つまり、常にとか毎日というのは難しいかもしれませんが、定期的に契約書を参照してビジネス実態との照合をしてみてはいかがでしょうか。簡単に言えば実務部門を交えた契約書の読み合わせです。

そして、その照合作業により契約書の規定とビジネス実態の乖離を発見したときは、実態に合わせるような契約書の修正を提案して、覚書の形で合意しておくことと良いでしょう。
ビジネスがうまくいっていて、両当事者の関係が良好な間に行われたそのような趣旨の契約書の変更提案についてはお互いに前向きに協議できるとものと思われます。

こういった試みは将来の法的紛争の予防にも役立つはずです。

いちど、契約書の規定と実態との乖離をなくしていくため、契約書の定期メンテナンスを実施してみてはいかがでしょうか。

どてらいさん
どてらいさん

それいいですね。そんなに時間もかからないだろうし、一度やってみます。