「結んだ契約は守る。」当たり前ですね。
そう。その当たり前ができていないことが実際には珍しくなく、契約トラブルが起きてからそれに気づくということがあります。
「その条項は本当に守れますか?」という視点で見ないと、あとで苦労します。。
契約書を確認する際に、「自己の権利が適正に確保されているか」という視点が重要なのは言うまでもありませんが、それと同じくらいまたはそれ以上に重要なのが、「本当にこの契約の内容を契約期間中守ることができるか」という視点です。
たとえば、秘密保持契約書には以下のようなポイントがあります。そしてそれぞれについて「本当に守れるの?」の視点でコメントしてみます。
開示者の事前書面承諾なく、秘密情報を第三者に開示してはならない。
⇒親会社や関係会社、委託先も「第三者」です。それらに秘密情報を開示することはないですか?
全ての秘密保持対象の情報には、秘密である旨を明示すること。
⇒秘密情報を相手に渡す際にはひとつ残らずマル秘スタンプを押すことができますか?
口頭で開示する際は、秘密である旨通知したうえで15日以内に書面化して交付すること。
⇒会議や電話で必ず「今からのお話は秘密です。」と言うことができますか?
⇒情報を書面化した議事録を15日以内にきちんと送付できますか?
開示者の書面承諾なく秘密情報の複製は禁止
⇒秘密情報のコピーを取ったり、メールで展開するたびに相手方から書面の承諾を受けることはできますか? 社内会議資料に掲載したりしませんか?
開示者から要請があれば○日以内に秘密情報を返還する。
⇒その期限に返還できるよう受領した秘密情報を管理していますか? 情報が社内で散逸しているようなことはないですか?
などなどです。
実務に照らすと実施できていないということもあるかもしれません。でもそれは、契約違反状態です。
なぜ、契約を守れないのか?
では、みんな当たり前だと思っている「結んだ契約は守る。」ということができないことがあるのかを考えてましょう。
すぎやんの経験上、意図的に契約違反を実行する場合はまれだと思います。
つまり、「これをしたら(あるいは、これをしないと)あの会社との契約に違反する」と承知したうえでやってしまう(やらない)というパターンは少ないのです。
実際に契約に相違していることを現場の人に話すと次のような意見が返ってきます。
- そんな契約があるのを知らなかった。
- 当初は契約を意識していたようだが、ある時期から契約と異なる楽なやり方に変わり、それでも問題が起きなかったので時の流れとともにそれが定着した。
いずれもあるある型のうっかり契約違反のパターンです。悪気がないので許してあげたいのですが、実際に契約紛争の場面になると、残念ながら契約違反でありそれに伴う責任は追及されます。
うっかり契約違反をしないために
うっかり契約違反は、契約書を作成・管理する人と、契約内容を実際に実行する人とが異なる場合に起きる傾向があります。これを避ける方法として次のようなものが考えられます。
- 契約締結交渉時
契約書のドラフト内容について、現場実務の意見を聞き、本当に守ることができるか、過剰な負担にならないかという観点で見ていく。問題があるときは、相手方に修正を申し入れる。 - 契約締結時
契約を締結したときに契約内容を現場実務と共有する。契約内容を業務手順書に落とし込み徹底したり契約書の読み合わせをしても良いかもしれません。 - 契約履行中
時には実際の業務内容が契約内容とずれていないかを確認する業務監査などの機会を設けても良いかもしれません。
これらの試みで、契約内容と現場実務が乖離していて、現場実務を契約内容に合わせることが合理的ではないと考えられる場合は、相手方に対して契約内容の変更を申し入れるべきです。
例えば、親会社への開示を許容してもらうとか、一定範囲の複製は事前承諾なく可能とするとかです。
相手方と契約トラブルが生じてなく、円滑にビジネスが展開できている間であれば、そのような変更申し入れも受け入れられる可能性も高いと思われます。
契約書って、締結することがゴールではなくって、締結した契約を実行することが目的ですよね。