契約書では当事者を甲や乙と呼んでいますが、なんか古臭いっすね。
そうそう、確かにね。契約書の世界では、伝統的な慣習を守りたい風潮が少しありますんでね。
別に甲とか乙とかにしなくても良いんですよ。
契約当事者の呼び方
契約書において、契約当事者の呼び方として「甲乙丙…」を使用することがしばしばあります。
ほとんどの契約書の冒頭には以下のよう規定があります。
株式会社ABC建設(以下「甲」という)とXYZ商事株式会社(以下「乙」という)とは、次のとおり契約を締結する。
このように規定することにより、これ以降、この契約書中では株式会社ABC建設は「甲」、XYZ商事株式会社は「乙」と表されます。
なぜに甲乙丙と呼ぶのか・・・初めての方は何となく古臭い表現で戸惑うでしょうが、日本における契約慣習としては、甲乙丙を使用することが一般的です。
甲乙丙とは
「甲乙丙・・・」は、古代中国から日本に伝わった「十干(じっかん)」の一部です。
十干は「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10あります。
この十干と「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の「十二支(十二支)」とを組み合わせて60種の「干支(えと)」となり、昔から方角や時刻などを表す語句として用いられていました。
十二支は年賀状などで馴染みがありその順序を覚えていたり、すんなり読める方が多いと思いますが、十干の方については、馴染みがあるのは丁(てい)あたりまでで、その次の戊あたりから読みも並びもう怪しくなる人も多いと思います。
この十干を、契約当事者の呼称として使用することがいまだに多いのも事実です。
すぎやんが企業法務部員時代に接した契約で8者間契約というのがありました。そしてその契約書においてわが社の呼称には「戊」が割り当てられました。
「うちらは「ボ」かい!」と、その間が抜けた音の響きとともに、同僚と笑いあったことを思い出しました。
また「辛(しん)」が割り当てられた会社もありました。その「辛」は著名な電機製造業でしたが、私は、その「辛」という字なら、むしろ、スパイスとか韓国食材の商社の方がお似合いだなと思ったりしました。
甲乙丙に序列を感じる人も・・・
十干は学校の成績とか順番・序列を表現するときにも用いられます。
焼酎でも甲種と乙種があり、なんとなく甲種の方が高級で乙種は少し劣るという感覚があります(調べたところ、この甲乙の違いは、焼酎の製造方法の違いであり、品質の優劣ではないとのことです)。
事実、「甲乙つけがたい」という表現がありますが、やはり甲より乙が劣るという感覚がどうしても残っています。
すぎやんの経験では、契約の相手方から「なぜわが社が「甲」ではなくて「乙」なんだ!」と叱られたようなことは無いですが、自社の方から契約書のドラフトを提示する際は、なるべく相手方を先に書く(必然的に「甲」になる)ことを心がけていました。
契約の当事者呼称でやりがちな失敗
実務でしばしばと言っていいほど経験する失敗として、長い契約書の途中で甲と乙の認識が入れ替わってしまうことがあります。
また、契約書末尾の締結欄(捺印個所)で甲乙が入れ替わって印字されていたりすることもあります。
その失敗をやってしまうと、契約書として筋が通らないものになってしまったり、最悪の場合は契約自体が無効になる可能性もあります。
したがって、その失敗を避けるために、対照メモを片手に契約書を精読して確認するとか、WORDの検索機能を用いて辿っていくという地道なチェックが必要です。チェックの最後には、甲乙が一貫しているか確認することが必要です。
むしろわかり易い称し方が良い。
こういったミスの防止対策として、以下のような方法も考えられます。
会社名から呼称をとる方法
会社名から略を取る方法です。これなら甲乙の取り違えはまず起こりません。
株式会社ABC建設(以下「ABC」という)とXYZ商事株式会社(以下「XYZ」という)とは、次のとおり契約を締結す。。
契約の取引関係から明確な称し方をする。
例えば売買契約の場合、、、
株式会社ABC建設(以下「売主」という)とXYZ商事株式会社(以下「買主」という)とは、次のとおり契約を締結する。
他にも賃貸契約では「貸主、借主」という表現、委託契約の場合、「委託者、受託者」という表現などあります。
ミスを避けるために、今後はできるだけ甲乙丙という表現をやめていきたいです。
契約書の表現はわかりやすいものの方が良いですね。