秘密保持契約主要条項1 契約当事者条項

秘密保持契約の主要条項

秘密保持契約の主要条項解説シリーズ第1回は、契約当事者に関する条項です。

契約当事者条項のサンプル

ABC株式会社(以下「甲」という。)と 株式会社XYZ商事(以下「乙」という。)とは、 〇〇〇〇について検討するにあたり、甲又は乙が相手方に開示する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約を締結する。

契約当事者条項は、契約書の冒頭に明記されることが多いです。その契約書の主人公なので、冒頭に出てくるのも当然だと考えます。

契約当事者条項の内容

契約当事者というのは、その契約書から得られる利益を享受し、その契約書に定める義務を履行することを約束した者のことです。したがって、そのような約束ができる者でなくてはならないので、本やロボットやコンピュータなど単なる物体は契約当事者になることはできません。つまり、自然人や法律上の人である法人が契約当事者になりえます。
上記サンプルでは、「ABC株式会社」と「株式会社XYZ商事」という法人(株式会社)がこの秘密保持契約の当事者だと規定されています。

契約当事者条項のチェックポイント

契約当事者条項に関して注意すべきポイントは以下のような点です。

  • 契約当事者の表記が適正か?
  • 契約の捺印者・署名者が適切か?
  • 注意すべき当事者表記(子会社などをひっくるめているときなど)
  • 甲乙の序列に配慮がいるときもある。
どてらいさん
どてらいさん

簡単な条項に見えても、注意するポイントがあるんですね。

すぎやん
すぎやん

まあそうですね。一つずつ簡単に説明しますね。

契約当事者の表記が適切か?

先に述べた通り、契約当事者になれるのは自然人法人です。

個人事業主が契約当事者になる場合は、個人の氏名を書くのが本来の方法です。
個人事業の屋号を記載したいのなら、個人の氏名と組み合わせて、「山田建材店こと山田太郎(以下「甲」という)と・・・」と書くのが正式な方法です。しかし実務的には、当事者として特定ができて他に紛れることがない場合は屋号だけで記載することもあります。

法人が契約当事者になる場合は、法人の種別、つまり、株式会社か、有限会社か、財団法人か。また、株式会社であっても、前株(株式会社が社名の前にあること)か後株か、社名はアルファベット表記かカタカナ表記か、などがチェックポイントです。もらった名刺やホームページの表示に従うことでほぼ問題ないでしょうが、万全を期すには、法人登記の内容を確認して、その通り正確に記載することが望ましいです。

そこを間違えると、お名前を間違えて声をかけたりメールを出すのと同じことで、失礼にあたるし、そもそも印象が悪いので注意が必要です。

すぎやん
すぎやん

たとえば、私、すぎやんが運営する「行政書士すぎやん事務所」は、個人事業の屋号ですし、「すぎやん」はペンネームですので、契約をするなら本名である「杉山元哉」と記載するのが正式な方法ということになります。

どてらいさん
どてらいさん

えっ!! すぎやんって本名じゃなかったんですか!! 

すぎやん
すぎやん

まさか!! 

契約の捺印者・署名者が適切か?

契約書冒頭の契約当事者の表記の確認をしたときには、反射的に契約書末尾の捺印欄、署名欄を確認するのがいいでしょう。

その時には契約当事者を代表するのに適切な人が捺印欄、署名欄に記載されているかを確認します。
法人の場合は代表権のある人(代表取締役社長など)が捺印欄、署名欄に記載されていたらベストですが、大規模な会社の場合は、代表権は有していないが、正当な権限を有していると思われる人(本部長、部長など)が記載されていることが一般的です。
何の肩書もない人とか、班長とか主任とかちょっと不安な肩書の人が捺印欄、署名欄に記載されている場合、「このお方で権限上大丈夫か」を相手方に確認しておいた方がよいでしょう。

すぎやん
すぎやん

おまけですが、ちょっと信じられないかもしれませんが、冒頭に記載の当事者の社名と、末尾の捺印欄、署名欄に記載の当事者の社名が異なる、ということがわりとしばしばあります。甲と乙が入れ替わってるとか、冒頭は持ち株会社の社名なのに、末尾はその関係会社の社名になっているとかです。ここは一致してないと契約の有効性の問題にも発展しかねないので、注意してください。

注意すべき当事者表記(子会社などをひっくるめているときなど)

以下のような当事者表記には注意が必要です。

①ABC株式会社(ABC販売株式会社を含み、以下「甲」という)と・・・

②ABC株式会社(以下「甲1」という)およびABC販売株式会社(以下「甲2」といい、甲1と合わせて「甲」という)と・・・

③ABC株式会社(以下「甲」という)及びその関係会社と・・・

④ABC株式会社近畿営業部(以下「甲」という)と・・・

以下、①から④の問題点をすこし解説します。

①ABC株式会社(ABC販売株式会社を含み、以下「甲」という)と・・・

この場合、一般的にはABC販売株式会社は捺印しません。
つまり、ABC販売株式会社はこんな契約が結ばれていることを知らなかったと開き直る余地があり、ABC販売株式会社が契約違反をした場合に責任を追及しにくいというリスクがあります。
ただし、実際には、ABC株式会社がABC販売株式会社の親会社である場合には、ABC販売株式会社を管理する責任が親会社であるABC株式会社にはあると考えうることからリスクは低いと思われます。

②ABC株式会社(以下「甲1」という)およびABC販売株式会社(以下「甲2」といい、甲1と合わせて「甲」という)と・・・

この場合は、ABC販売株式会社は契約当事者として本契約に押印または署名しますので、①のケースで述べたリスクはなくなります。しかしABC販売株式会社が情報漏洩をした場合、契約上責任追及できるのはそのABC販売株式会社に対してであって、親会社であるABC株式会社の責任は薄まるという点は意識しておいた方がいいでしょう。

③ABC株式会社(以下「甲」という)及びその関係会社と・・・

この場合は、ABC株式会社の関係会社の特定ができておらず、仮にABC株式会社がグローバルに事業展開している大規模な会社の場合、開示した情報が世界中のどこまでも伝播しかねないことになり、情報管理の面でリスクがあります。

この場合は、秘密情報の再開示先として関係会社名を特定するように交渉した方がよいです。

④ABC株式会社近畿営業部(以下「甲」という)と・・・

これもよくある例です。
契約書の当事者には自然人か法人しかなりえないという原則があります。
ABC株式会社近畿営業部は法人の一部門(組織)であってそれだけでは法人ではありませんので、「ABC株式会社」だけで十分なはずです。
しかし大規模な会社の場合、その会社の事情によりこのような表記を求めることも一般的です。ABC株式会社が信頼できる場合、リスクはそんなにないと思われるので、受け入れ許容範囲かもしれません。

甲乙の序列に配慮がいるときもある。

一部、乙より甲が上位(偉い!!)という意識を持っている人がいます。

どちらを甲にするべきか、どちらが乙でいいかという序列には明確な定めがありませんが、すぎやんの実務経験では、お金を払うことになる人(一般的にお客さん)が甲で、お金を頂くことになる人が乙という流れが自然と思っています。
でも、相手方から契約ドラフトを提示されたとき、甲乙を入れ替えるような修正提案をしたことはないです。ただ、当方から契約ドラフトを提示するときには、相手方を甲に据えたほうがいいいもしれませんね。(ここは、ちょっと化石めいた古い考えかもしれません(笑))

応接室、会議室、自動車、エレベーターの中の上座・下座を意識するような感覚で、マナーの問題といえましょう。

どてらいさん
どてらいさん

細かいところまでいろいろ教えてくれてありがとー!

すぎやん事務所
すぎやん事務所

いえいえ、こんな細かいチェックをするのはめんどくさいでしょうから、行政書士すぎやん事務所に、契約書作成を依頼してみてはいかがですか? 一度ホームページをご覧ください。

どてらいさん
どてらいさん

おやおや営業ですか?