「秘密保持契約を提案したら、こんなこと言われた」のシリーズとして、3つの記事を記載します。
第1回は、「秘密保持契約の書式は自社提案のものを使用すること。一切の変更を認めません。」という一方的な方針を強く迫られた場合のお話です。
契約交渉拒否型
話がうまく進み、「今後もっと深いビジネス協議を進めるために、秘密保持契約を締結しましょう」と提案したところ、このような返答を頂くことがあります。
「(秘密保持契約を締結することには)承知しました。早速、当社所定の契約書式をお渡ししますので、次回の打合せまでにハンコを押して返してください。契約条件は、どのお取引先様も同じ条件にしていただいてますので、一切変更なしでお願いします。」
かなり高圧的ですが、実際にこのような言い方をしてくる会社はあります。いわゆる一流と言われる企業でも、このように契約交渉を最初から拒絶するタイプの会社はあります。
こう言われた方としては、「なんという高圧的な態度!」「本当に協議できないのか」といった反発感、不信感、疑心暗鬼、呆れなどなど様々なマイナスの感情を持たれることだと思います。
反発できれば良いが、そうはいかない場合も実際は多い。
契約交渉拒否型の相手と出会ったときには・・・
・そんな会社と取引すると将来面倒なことになりそうだから、契約をあきらめて、他の会社との取引を模索する。
・「そうはおっしゃっても、ドラフトの内容を確認して問題があればご相談させてくださいね。」と切り返して、契約交渉の余地を探る。
といった、対応がベストかと思いますが、当方の立場、取引関係、企業規模の違い、などなどの事情により、契約交渉をしないことを受け入れざる得ない場合も多いと考えます。
つまり、「この会社と取引できるだけで幸せなこと。せっかく掴んだチャンスを逃すわけにはいかない。出された契約書をそのまま変更せずに締結する。」という経営判断をすることも実際やむを得ないことだと思います。
契約交渉不可を容認するとしても・・・
しかし、ここで、ぜひ注意いただきたいのは、契約交渉不可の場合でも、提示された契約書の内容を全く確認もせずに印鑑を押すことだけは、絶対に避けてください。ということです。
つまり、もしそのようにまったく確認せずに締結した契約に違反して相手方から責任追及されたときに、
「契約の内容を確認していなかった。」
「契約交渉に応じてくれないと言われたので読んでいない。」
「捺印を急かされたので読んでいない。そんな条項があるのは知らなかった。」
などといった言い訳は、心情的には同情されるかもしれませんが、裁判所など出るところに出たら、まず通用しないと考えておくべきです。
契約書に押された印影を示され、「このハンコはあなたのハンコでしょ。あなたは、契約書の内容に納得してハンコを押したのでしょ。」というのが、公式な見解です。
つまり、強く言いたいのは、「交渉不可だとしても、契約書ドラフトの内容はよく読んで確認しておくべきだ」ということです。
契約書ドラフトの確認方法
契約書ドラフトの確認方法としては、契約条項を、下記のような分類にランク付けするとやりやすいと思います。
- 従来の業務オペレーションで特に問題なく遵守できる条項。
- 遵守するためには、注意が必要な条項。
- 遵守するためには、従来の業務オペレーションを変える必要がある条項。
- こういう行為を相手方が行っても、責任追及ができないとされている条項。
- いかなる方法を尽くしても遵守できない条項。
このように分類すると、秘密保持契約であれば、意外と1~4のランクに大概収まることに気付くはずです。
そのうえで、リスク分析をして、呑み込むリスクと呑み込めないリスクを分類します。
また、契約遵守のためには業務オペレーションの変更が必要な場合はその内容を検討したり、契約遵守のために必要な注意点を社内関係者に徹底したりします。
そういう風にリスク分析をしていくと、何らかの対応で回避できるものであったり、受忍できるものであることが大半であることがわかります。
どうしても受け入れできないリスクがあった場合
もどうしても受け入れることができないリスクについては、先方に対して条項の変更を粘り強く交渉するしかありません。
ここでのコツは、あれこれ変更を要請するのではなく、最低限のポイントに絞って要請することです。
そうすると、当初、一切の変更は認めないと宣言されても、ポイントを絞って交渉すると、変更に応じてくれたり、契約書自体は変更しないが、別途付帯する変更覚書の形で実質的な変更に応じてくれることもあります。
それも無理な場合は、契約をしない(取引をしない)というということになります。
これについては経営者としての重要な判断です。
担当者や法務部門に任せるのではなく、経営者自らが判断する必要があります。
契約書に合わせて自分のオペレーションを変えることでリスクを軽減できることもあるんですね。
そう。意外とそれが多いです。契約書を読んでいれば対応できたはずのリスク回避策を実行しないままの状態で契約関係に突入することが、一番やばいですよね。
契約書を読まずにエイヤ!でハンコを押すのが一番ダメですね。
行政書士すぎやん事務所では、契約書の内容検討、リスク抽出の業務も行っています。ホームページをご覧ください。