契約書の条文を作成するときに心がけるべきポイントを教えてください。
美文である必要はなく、いくぶん理系的なというか数式のような文にするといいです。
日本語表現で多用される文言の省略を減らした方が良いことも多いです。
契約書の条文をつくるときのポイント
契約書の条文を作るうえで、最も大事なことは…
100人が読んだら100人が同じ解釈をする文であること
です。
「数式のような文」というのは、このポイントを示しています。「2+3」という数式の答えは、100人が100人とも「5」です。数式の答えは一つです。理系的というかデジタル的ですね。
これに対して、文というのはなかなかそのようにスパッと割り切れないことが多いです。
あいまいで解釈幅が生じる事例
たとえば、下記のような条文を読んでどう解釈しますか・
甲が納品した商品に満足したときは、すみやかに対価を支払うものとする。
ある人は、
「この商品を納品したのは省略されている乙で、対価を支払うのは甲なんだな。」(文頭の「甲が」は「満足した」と「支払う」にかかっている)
と思うでしょうし、またある人は、
「商品を納入したのは甲で、対価を支払うのは省略されている乙だな。」(文頭の「甲が」は「納品した」にかかっている」)
と思うでしょう。
まさに、正反対の解釈になります。この例では、このほかに以下のような解釈幅が生じます。
- 「商品に満足したとき」となっているが、その判断する人の心の中の基準次第で満足するかしないかが決まる。いつまでに満足・不満足を判断したらいいのかわからない。ある人は「納品翌日かな」と思うでしょうし、またある人は「今忙しくて手が付けられないので、余裕ができる来月下旬でいいよね」と思うでしょう。
- 「すみやかに支払う」となっているが、「すみやかに」の基準も実にあいまいで、「満足した日の翌日か翌々日だろう」と思う人もいるし、「今お金ないし、次のボーナスが出る半年後でもいいよな」と思う人もいるでしょう。
というふうに、この文例はちょっと極端な例ですが、あいまいな条文ですとそこから生まれる解釈の幅はかなり大きく広がってしまい、紛争解決の基準という契約書の役割か果たせなくなる可能性があります。
解釈の幅というのが日本語の良さではあるが、こと契約書となると問題
青春時代に小説家になる夢を持っていたすぎやんは、じつは、解釈の幅を生じやすいということこそが日本語の良さだと思っています。小説など文学作品は、読む人によって、心の中に描く作品のなかの町の風景や登場人物の顔は全然違うはずです。日本人の心の深さや感情の拡がりを生み出す源泉の一つとして、日本語の表現の豊かさというのがあると思います。そんな日本語が私は大好きです。
しかし、契約書の条文の場合はその日本語の良さの部分を幾分封じないといけません。すなわち、いくつかある契約書を締結する目的の中で最も重要な「当事者間で紛争が生じたときの解決の基準にする。」という目的に照らすと、そこに書かれた文の解釈が人によって異なってくると、基準としての目的を果たさないことになるからです。
つまり契約書の条文の場合は、読む人によって解釈の幅が生じないようにするための工夫が必要です。
修正例
今回の条文例の修正案としては次のようになります。
1.乙は、甲から納品を受けた日から7暦日以内に、商品を合意仕様に基づき検査し、結果を甲に通知する。
2.検査合格の場合、乙は、前項の通知日が属する月の翌月末日までに、商品の対価30,000円(消費税等含む)を甲の指定銀行口座に振り込むものとする。振込手数料は乙負担とする。
3.検査不合格の場合、・・・・・
無味乾燥な情緒のない文になってしまいました・・・。しかし、契約書としてはこのようにいくぶん数式のような解釈と答えが一つになるような文にしていかなくてはなりません。
日本語は難しいですね。