はしご外しであぶない

あぶない契約書
どてらいさん
どてらいさん

ビジネスにおける「はしご外し」の恐ろしさ。

なんとなくわかるような気がします。

すぎやん
すぎやん

「はしご外し」は、実務でよく見聞きするトラブルですね。リスクについて十分議論し、契約書に反映しておくことによってインパクトが軽減されることもあります。

ビジネスにおける「はしご外し」とは

本来、「はしご外し」という慣用句は、「仲間や味方におだてられて先に高いところに進むが、突然仲間や周囲が手を引いて置き去りにされて孤立する。」という意味で使われます。

ビジネスにおいては次のような状況を「はしご外し」と呼びます。

部品の製造その他、何らかの仕事を新たに受託するときに、既に自分が保有している経営資源(設備、システム、人員)では対応できないことが当然あります。
このようなときにはその仕事を受けるために、新規の設備を購入したり、システムの改造を行ったり、補強人員を採用したりと、資金を調達して新たな投資を行う必要があります。

当然、これらの投資は、その仕事が一定期間継続することや、一定以上の発注量が期待できることが前提になる場合が多いです。特にその投資が発注者向け専用のもので、他に流用できない場合は、投資回収の途中で期待していた仕事が途絶えたり、注文量が激減したりすると、経営への直接的なダメージになります。

はしご外しの悲劇を回避するには。

では、このはしご外しの悲劇を回避するにはどうしたらいいのか。

ビジネスの根幹ともいえるポイントなので、すべてのケースに適用できる最善の回避策というのはたぶんないのでしょうが、やはりできることなら、最初の受注の段階で、投資が必要なこと、投資額、回収計画等を含めて発注者と十分協議し、契約書の中に織り込んでおくことがベストではあると思います。
ただし、そんなリスクは自分で飲みこめる資力がある競合が存在しているときは、そのような協議は難しいです。(投資リスクの分担を求めてくる相手より、なにも文句を言わず受注してくれる相手に発注するというのは当然)

しかし、新規の投資について発注者に対して何ら伝えず受注して、契約書にも何ら手を打っていないと、はしごを外されたとしても何も文句を言えないのは確かです。

難しい経営判断になりますが、慎重な考慮が必要です。

「最低購入金額」条項も一つのアイデア

投資リスクの分担を契約書に反映する一つのアイデアとして「最低購入金額」条項というものがあります。

第〇条(最低購入金額)
1.発注者は、20xx年yy月zz日までに本製品を最低でも累計金額〇〇〇円に至るまで購入するものとする。ただし、受注者の責めに帰すべき事由により購入できない場合はこの限りではない。
2.前項に反し、発注者が本製品を購入しないときは、未達成金額の〇〇%の金額を違約金として受注者に支払うものとする。

発注側としては、市場の変化が予測し難い中では、長期間の一定量の発注の確約はなかなか認め難い場合もあり、この条項をめぐる交渉は非常に難しいものになると思われます。

交渉の論点としては、以下のようなものが考えられます。

  • 投資は、発注者専用ものか、汎用的なものか。
    発注者専用であれば、交渉の余地がありそうです。例えば、発注者が全面的に費用負担するとともに投資して得た新たな設備の所有権は発注者に帰属させ、受注者は発注者から貸与を受けるという整理もありえます。なお、この場合、受注者は当該投資設備を発注者以外からの受注には利用できません。
    汎用的であれば、発注者のみに投資負担をさせるのは一般的に難しいが、受注者側での流用の可能性も含めて、どの程度の割合を今回の発注者に負担してもらうかという見立てを含めて検討が必要です。
  • 投資費用の回収方法をどうするか。
    一括的に発注者が受注者に支払うとするか、継続的な発注の中で段階的に発注単価に上乗せして支払っていくこととするか。後者の場合、投資回収前に継続的な発注が途絶えた場合にどう対処するか。

などなど、バリエーションが多々ありますが、非常に慎重な検討が必要です。

一番ありがちで、でも怖いのが・・・

「はしご外し」のリスクを語るうえで、もっともありがちで、しかし一番怖いのが、「口約束」です。

受注者側から投資リスクの相談をすると、発注者のほうから、「悪いようにはしないから」とか「長い付き合いを期待してますので」などの言葉をいただき、それを頼りに投資に踏み込む場合もあるでしょう。

しかし、これは大きなリスクがあります。

はしごを外されたときに、「発注者の〇〇さんからの言葉を頼りに投資した。」といくら主張しても証拠がありません。発言の証拠があったとしても「投資リスクを負担する意味で言ったのではない。」との反論を受けるとほぼ対抗できません。やはり契約書や場打ち合わせ議事録などの形で明確に残してしておくべきでしょう、

はしご外し案件は契約法務トラブルのトップ3の一角。

すぎやんの企業法務所属時代にも「はしご外し案件」の相談を受けました。残念ながら契約書上では手を打てていないこともありましたし、逆に投資を保証する発言が議事録に残っているようなこともありました。

問題が表面化してからでは、なかなか良い解決にはつながりません。契約締結交渉の段階で投資リスクの問題を議論の俎上に載せて、場合によっては契約書などで明確に反映しておくということが大切だと考えます。

どてらいさん
どてらいさん

確かに、契約交渉の段階がポイントですね。