契約の当事者が変わる場合(事業譲渡、会社分割、合併、商号変更等)

契約書の基礎
どてらいさん
どてらいさん

連絡があって、以前締結した契約書の相手方が変わるみたいです・・・。

すぎやん
すぎやん

その変わる理由がどのようなものかをしっかり確認して、それに応じた対応が必要です。

契約の当事者が変わるのはどんなとき?

原則としては契約の当事者が勝手にころころ変わることはありません。ただし、次のようなケースでは契約の当事者が変わることがあります。

  • 当事者が合意したとき。事業譲渡をしたとき。
  • 会社分割のとき
  • 合併のとき
  • 商号変更のとき
  • 死亡したとき(自然人)。破産したとき。

当事者が合意したとき、事業譲渡をしたとき

平成29年の民法改正で追加された民法539条の2は、契約の当事者の一方が、第三者との間でその契約上の地位を譲渡する合意をした場合には、その契約の相手方が承諾したときは、契約上の地位が当該第三者に移転するという趣旨の規定です。
改正前民法には明文規定がなかったが、実務上一般的に行われていた内容を明文化したものです。

民法第539条の2(契約上の地位の移転)
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。

これは、M&A手法の一つである「事業譲渡」という手法を使うときにも適用される考え方です。
契約相手方が第三者に事業譲渡する場合は、事業譲渡の狙いや事業譲渡先の概要を説明するとともに、契約上の地位の譲渡への承諾を求める書面が契約相手方から届くことが一般的です。
当方としては、その書面等を参考に検討し、事業譲渡先に契約を承継させて良いと判断した場合は、承諾欄に記名捺印して返却するという手続きをとります。

ここで、もちろん当方には契約承継を拒絶する選択肢もあるにはあるのですが、もとの契約相手方はその契約に関連する事業を今後行わない状態で存続するので、そのようになった相手方ともとの契約を継続する意義がなくなるのが普通です。
従って、実際にはその承継先とビジネスを続けるか、新たな契約先を探すかの選択になると思われます。

会社分割のとき

会社分割とは、事業の一部もしくは全部を、他の会社に承継させることをいい、新設分割と吸収分割の方法があります。ある事業を第三者に売却するという、売買という取引類型に整理できる「事業譲渡」とは異なります。事業譲渡に特化した法律はありませんが、会社分割については会社法に規定があります。

契約相手方が会社分割を行い、その契約に関連する事業が第三者に承継される場合、原則として当方の承諾なく分割先会社に契約は承継されます。ただし、会社分割によって契約相手方を含む分割会社の債権者に不利が与えられる可能性もあることから、会社法では会社分割を行うときには債権者保護手続きを行うことが義務付けられています。

合併のとき

合併とは、複数の会社を1つの会社に統合することをいいます。合併される会社は解散し、その財産及び権利義務の一切を合併する会社が包括的に承継します。合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。
契約の相手方が合併を行う場合、合併される会社が締結していた契約の契約上の地位は合併する会社に包括的承継されます。合併の場合も会社分割と同様に債権者保護手続きを行うことが義務付けられています。

商号変更のとき

契約相手方の商号が変更されることがあります。
しかし、これは単純に名前が変わるだけで、法人としての実態は変わっていないといえます。したがって当方の承諾は不要です。

契約相手方が商号変更をする場合は、契約相手方から商号変更の狙い等を記載した通知書面が届きます。当方としては、その通知書面の内容を確認するだけです。契約書の変更手続き等は原則として不要です(もちろん覚書で変更しても良いです)。
なお、商号変更に伴って振込先銀行口座が変更される場合など、実務的な対応が必要なケースもありますので注意しましょう。

契約相手先(自然人)の死亡のとき

個人事業主など自然人が契約相手方の場合、その人が死亡したときには相続が発生します。
相続では、死亡した人が締結していた契約上の権利義務は相続人に引き継がれるのが原則です。ただし、死亡した人の固有の権利義務や特定個人の信頼関係が前提となっている権利義務は相続されません。

実務上は、契約の相手方の死亡の報に接した場合、相続人と契約を続けるかどうか個別に協議して対応を判断することが多いようです。

契約相手方(法人)の破産のとき

契約相手方が破産したときは、破産手続きにより破産者である契約相手方は最終的に消滅しますので、締結済み契約の契約関係は、破産手続きの中で清算しておかなければなりません。
もっとも,破産手続が開始されたからといって,その会社の契約関係がすべて当然に終了するわけではなく、破産手続が開始されても,契約は存続されているのが原則です。

これら契約関係は,破産手続において,破産管財人が,契約に基づく債権債務を履行して契約目的を達成してから終了させるか,あるいは,契約解除して終了させるという処理をすることになります。

企業法務実務あるある質問、当事者関係

「契約相手が合併するらしいが、契約を締結しなおさないといけないのか。」
「契約相手が商号変更するらしいが、覚書を結ばないといけないよね。」
などといった契約当事者関係の質問をしばしば受けます。

そのような場合にまず最初に行うべきは、契約相手方はどの種類の手続きを行うのかをきっちり確認するということです。手続き内容を把握したうえで、それに対する当方の方針を見極めて、契約書に関して特段手を打たない、新規に契約を締結する。覚書を締結する。等の対応を検討していくことになります。

どてらいさん
どてらいさん

なかなかややこしいですね。事実関係の確認とそれに応じた正しい対応が必要なので、実際に契約相手方が変わるようなことがあったら対応を間違えそうです。

すぎやん
すぎやん

そうですね。専門家に相談した方が良いかもしれませんね。