契約を結ぼうという話になって、契約書のドラフトを作って相手方に提示したところ、ずいぶん待たされた挙句、訂正箇所が多くて真っ赤っかになった修正提案が相手から返ってきました。むちゃ気分悪いですわ。
どてらいさんがお怒りになるのは珍しいですね。
そのお気持ちはすごくわかりますよ。
契約書ドラフト作成者への敬意は払おう
契約書ドラフトの提案を受けた場合、それを作成した人への敬意は払うべきです。
言い換えれば、受領した契約書ドラフトに対してコメントすべきは、規定の内容に対するコメント、明白な誤記の修正、解釈に疑義が生じうる不明瞭な条項表現に対してのコメントに絞るべきです。
すぎやんの企業法務実務の経験においても、当方の会社標準書式として用意された契約書ドラフトを相手方に提案したところ、真っ赤っかに修正添削をしたカウンター案を戻してくる会社がたまにありました。
そしてその変更箇所をよくよく見ると、正直「意味が変わらないし、どうでもいいのでは」というような変更提案が大半です。
法務担当者として、「重要でない変更提案をこんなにたくさんしてくるとは、どんな心得をしているだ。」という悪い印象しか持ちませんでした。
また、自分の部下に相手方から受領した契約書ドラフトの審査をさせたところ、非常に多くの変更を施したカウンター案を作成することがありました。特に、比較的経験が浅いスタッフにその傾向がありました。
そのようなときは、「これを受け取った相手はどう思うかな。変更箇所をもう少し絞るよう考えてみてはどうか。」と助言したものです。
変更箇所が多くなる原因の第一は、趣味的な変更
契約書の変更箇所が多くなる原因の第一は、「趣味的な変更」をしてしまうからです。
「趣味的な変更」というのは、変更理由を相手方から問われたときに説明しにくいものと言い換えることができます。主なものとして次のようなものがあります。
- 文調の変更
ですます調をである調に書き換える提案など
「以下、甲とします。」 → 「以下、甲とする。」 - 意味としては同じなのに文章表現を変更する。
「甲乙合意する。」 → 「甲と乙は合意する。」 → 「甲及び乙は合意する。」 - 漢字ひらがなの変更
甲及び乙は合意する。→ 甲および乙は合意する。
※ 漢字「及び」とひらかな「および」が一つの契約書の中で混在していることは、確かに好ましくないです。しかし、相手方に対して修正要請をするまでの問題かどうかはちょっと考えたほうが良いです。
※ たまに漢字とひらがなでは意味が異なる場合もあります(「時」と「とき」など)ので注意しましょう。 - 条項の順序入れ替え
大企業の法務担当新人がやりがちな、自社の標準書式の契約書の条項順序に合わせようとする変更です。もちろん理解しやすい条文の順序や慣習的に決まっている条項の順序はあります。しかし、誤解が生じないのであれば、受け取った契約書ドラフトの条項順序を変更するまでもないことが多いです。 - 甲と乙の入れ替え
自社が「以下、乙という」と設定してあった場合、自社を甲に変更する。
一部の人には「甲」が「乙」の上という印象があるようで、このような変更要請を受けたことも実際ありました。
変更箇所盛りだくさんカウンターを出すことの真の弊害
変更箇所盛りだくさんのカウンターを出すことの弊害は、相手方に悪い印象を与えるというもののほかに、交渉上不利に働くということもあります。
それは、契約交渉が枝葉末節の議論に終始してしまい、その結果、相手方が趣味的な変更の大半だけを受け入れて、「これだけ多くの変更を受け入れたんだから、もういいでしょ。」という調子の交渉戦術をとった場合、本質的な条項変更を強く主張しにくいというケースです。
契約交渉において本当に確保すべきは当方の権利と義務の内容を記述している部分です。趣味的な変更部分の議論に終始し、肝心の権利義務の部分について当方の主張が認められないという結果になるのは本末転倒です。
契約書の交渉に当たっては「木を見て森を見ず」ということにならないようにしないといけません。
冒頭では、感情的になってお見苦しいところをお見せしました。
今の状況をチャンスととらえ、当方にとって良い契約書になるよう交渉していきます。