契約交渉におけるお作法って何でしょうか?
契約交渉を行う際の暗黙のルールというかマナーのようなもので、これをはずすと「常識ないな」と思われて、交渉が不利に振れていくことがありますので要注意です。
- 契約交渉のお作法(マナー)
- 契約書のドラフトは、WORD形式のデータでやり取りしよう。
- 契約書のWORDデータをメール等に添付してやり取りするときには、パスワード設定をしましょう。
- 提示された条文等の変更を提案するときには、変更履歴付きで書き込みましょう。
- 相手方の変更履歴付き書き込みを、勝手に削除したり、反映しない。
- 変更を提案するときには、変更理由などコメントを添えて行いましょう。
- 内輪のやり取りをさらけ出さないように・・・・
- ごちゃごちゃして分かりにくくなってきたときは、両者合意のもと反映作業を。
- 形式的な調整は後でまとめてやりましょう
- 相手方提示のドラフトには一定の敬意を示しましょう。趣味的な変更は自重も。。。
契約交渉のお作法(マナー)
契約交渉を行う際の暗黙のルールがあります。
契約交渉の経験が少ない場合は気づかないことが多いと思いますが、一種のビジネスマナーレベルのものでもあり、ちょっと意識して実践するだけでOKです。
以下にいくつかのお作法を掲げますので、ぜひ実践してください。
契約書のドラフトは、WORD形式のデータでやり取りしよう。
契約交渉のベースとなる契約書ドラフトは、MSのWORD形式のデータでやり取りするのがスタンダードです。
一太郎などWORD以外の文書作成ソフトで契約交渉を行うことはまずありません。
また、まれにEXCELを使用して契約書ドラフトが作成されている場合があります。
EXCELで作成された文書は行頭などでレイアウトが整えられてて、プリントアウトすると美しい場合も多いのですが、もともとEXCELは表計算ソフトであり、編集履歴が残せないという契約交渉における最大の問題があるので、契約書作成の場合はEXCELはあまり良い選択ではないと考えます。
また、契約書ドラフトがWORD形式で提示されたものの編集機能がロックされている場合やPDF形式で提示される場合も少なからずあります。
いずれも「一切変更はさせないぞ!」という意思からそのような形式で提示されるものと思われますが、すぎやんなんかはこんな時は逆に闘志がわいてしまいます。
いずれにしても、お作法という点でいうと、ちょっとはしたない行いだと個人的には思います。(なお、一切変更不可の契約を提示されたときの対応については別項をご参照ください)。
契約書のWORDデータをメール等に添付してやり取りするときには、パスワード設定をしましょう。
WORDで作成した契約書ドラフトをメールに添付してやりとりすることがありますが、この際、情報管理の観点からは、WORDの保護機能を使用してパスワードを設定しておくことが望ましいです。
パスワードは、あまり複雑なものにするべきではなく、かといって容易に推測できるようなものは避けて決めたうえで、関係者に共有します。また、原則として1つのプロジェクトで1つの固定のパスワードにするのが良く、コロコロ変更しない方が無難です。
パスワードを共有したメンバーを管理して、メンバーの変更が生じた場合は必要に応じてパスワードを変えてください。
提示された条文等の変更を提案するときには、変更履歴付きで書き込みましょう。
契約交渉では、契約書ドラフトのWORDファイルに、修正案やコメントを書き込んでいくのですが、この際に「変更履歴の記録をON」にして書き込むのがお作法です。
こうすると、どこを誰が変更したかというのが一目瞭然だからです。
変更履歴を残さず書き込んで、取消線をつけたり文字の色を変える方法をとっているケースもたまに見かけますが、編集の手間が増えるので、やや不作法という感は否めません。
また変更履歴の箇所に表示される編集者が、イニシャルや記号や単に「作成者1」や、交渉と全く関係のない別人の名前とかになっている場合もあります。しかし、ここは対外交渉の場合は社名にするなど、表示される該当箇所を編集した者を特定しやすいものに設定しておくことが望ましい。
相手方の変更履歴付き書き込みを、勝手に削除したり、反映しない。
契約交渉では、契約ドラフトのWORDファイルをお互いに書き込みをして往復することが何度も重ねられることが通常です。
このとき、相手方が書き込んだ個所を、無断で削除したり、履歴を消してその内容を反映したりすることがたまにあります。しかし、これは、削除はもちろんですが、無断で修正内容を反映することも、お作法的には不適切だと考えます。
これら行為の問題点としては、まず、そのようなことがなされたことが一見してわからない(気づかない)という点があります。また、1か所でもそんなところが見つかると、他の部分もそんなことがされていないかすべて照合する手間がかかるという点も問題です。
いずれもかなり印象を悪くするので、相手が書き込んだところは絶対に無断で触らないようにしましょう。
変更を提案するときには、変更理由などコメントを添えて行いましょう。
相手方の提案に対して変更を求めるときは、単に履歴付きで変更内容を書き込むだけでなく、変更理由を付記するのがお作法です。
変更理由の書き込みは、WORDの吹き出しコメントを使って行うことが標準です。
たまに、吹き出し機能を使わず本文中にカッコつきでコメントを記載している場合もあります。PCの設定で吹き出しが表示されない場合や吹き出しに気づかない場合もあるのでこのような対応をしているようです。
ここはどちらでもよいと思いますが、吹き出し機能を使って「吹き出しにコメントを記載しております」と相手方に告げることにより、コメントの見過ごしを避けることができるとは思います。
内輪のやり取りをさらけ出さないように・・・・
これはお作法という問題ではないのですが、WORDに記載するコメントについて大事なポイントがあります。
契約書の検討を社内の関係部門や社外の専門家と連携して行う場合があります。そのときは、相手方から入手した契約書ドラフトのワードファイルを、交渉窓口部門から関係者に配布して、各関係者がそれぞれ検討して交渉窓口部門に集約して、それを相手方に戻すという流れになります。
注意すべきは、その相手方に戻す前に、WORDに書き込まれたコメントをよくよくチェックする必要があるということです。そのコメントには、相手方に示すことを意図していない、関係者からとりまとめ部門への社内連絡レベルのコメントが入って場合が多いからです。
すぎやんの経験上も、相手方の内部コメントがそのまま当方に伝わったようなことが少なからずありました。その内部コメントの内容は様々ですが、中には当方に失礼な内容があったりして、「ふーん。先方はそうな風に我々のことをを見てるんだ・・」などと思ったこともありました。大概は見て見ぬふりをするのですが、心の中にはその感情がしっかりと刻み込まれています。
ごちゃごちゃして分かりにくくなってきたときは、両者合意のもと反映作業を。
変更履歴の話に戻しましょう。
契約交渉の進行とともに、契約書ドラフトのWORDファイルの往復も回を重ねていくと、変更履歴が重なり合って、とても見にくい状態になることがあります。
その場合は、両者合意のもと、合意個所の確定作業をお行うといいでしょう。
この際、両当事者がリアルまたはバーチャルの会議室に集まって、同じ画面を見ながら一つ一つ確認しながら確定作業を進めることをおススメします。
この作業を行うことによって、クローズ事項とオープン事項の切り分けができて、そのあとの契約協議の見通しがつけられるという副産物もあると思います。ポイントは両者合意のもと行うことです。
勝手にやって、あとになって「やっときましたー」と告げるのは、相手方単独の確認作業が伴いますので、お作法的には不適切です。
形式的な調整は後でまとめてやりましょう
契約書ドラフトの変更要請のやり取りを重ねていくと、知らず知らずのうちに書式が乱れてくることがあります。
フォントの種類や文字の大きさの不統一、行頭の凸凹、不規則な改行、引用条項番号のズレなどです。
こういった形式的な問題は交渉途中で都度都度するのではなく、最後にまとめてやるのがおススメです。
すべてのオープン事項をつぶした後に、変更履歴がない、クリア版の契約書を最後に確認する機会を設けるとよいです。
相手方提示のドラフトには一定の敬意を示しましょう。趣味的な変更は自重も。。。
契約書のドラフトの提示を受けた場合、読み進むなかでいろいろ気になるところが出てきます。そして受け入れできない部分は変更の提案をするわけですが、ここでその変更の提案の程度が問題になってきます。
結論から言うと、国語的な問題、変更しても意味が変わらないもの、単なる形式的な問題などは、変更要請をするべきではないというのがお作法だと思います。
すぎやんの経験でも、顧問弁護士に相談して作成した標準型契約書を相手方に提示したところ、真っ赤っかに変更して逆提案されることがありました。そんな場合、まず第一印象として「ムッ」とするわけですが、その気持ちを押さえてよくよくその内容を見ると、別に意味は変わらないものとか形式的な修正が大半のことが多いです。このような行動は、単に心証を悪くする効果しかありません。そういった変更を「趣味的な変更」と呼んでいました。
契約書のドラフト作成者に対して一定の敬意は払うべきだし、趣味的な変更のループには陥るべきではないと思います。
そのドラフトを出した相手方は、今後長くビジネスや取引をやっていく大事なパートナーの候補者であることを忘れてはなりません。いきなり大量の趣味的変更を提案して、悪印象を刷り込んでいくことは、何も得になることが無いと思います。
なるほど、どれも大事なところですね。
相手方は、今後長く取引するビジネスパートナーになるかもしれないということを忘れてはなりませんね。