いま取引先ともめそうなんですが、契約書を見てもそのもめている論点に関する言及がないんです。困りました。
簡素な契約ほどあぶないという説もあります。
発生リスクに言及していない契約書はトラブルに対して無力です。
契約書の締結段階で注意深く検討したらよかったですね。
簡素な契約ほどあぶない(こともある)
企業法務に従事していたころ、現場部門から「取引相手ともめそうなんだけど…」と相談を受けて、「じゃあ契約を見せてよ」というと、「契約書がない」「注文書しかない」「簡素な契約書しかない」「秘密保持契約しかない」というパターンが結構多くありました。
これは、契約書を結ぶ目的の一つである「将来発生する紛争の予防、解決の指針にする」という点で不十分な状態といえます。
そのなかで意外と多いのが、契約書があるにはあるんだが、いざ現物を見るとなぜかペラペラで簡素で、トラブルの解決に直接役立つような言及がないというパターンです。
このような場合は、類推適用できる条項はないか、論点に対する当事者の意思を推定できる条項はないかという観点で契約を見ていくわけですが、やはり紛争予防、解決の指針とはなりにくく、悪い言い方ですが、これだと契約書を締結した意味がないともいえます。
当方から契約ドラフトを提示する際、あるいは相手方から契約ドラフトを提示された際、なんか簡素だなと感じたならば一歩立ち止まって、「これでリスクは網羅されてるかな?」という観点で検討するのがいいでしょう。
何故簡素な契約書になるのか
別のしっかりした契約書の変更覚書とか契約期間延長覚書とかであれば簡素になることもありますが、取引に関する契約書が簡素な契約書しかないというのはちょっとあぶない場合が多いです。
契約書が簡素なものになってしまう背景の事情としては、以下のようなものがあります。
リスク設定が足りない
契約書の対象となっている取引から発生しうるリスクの設定が甘く、リスク対応ができない契約書になってしまうというパターンです。
効果的なリスク設定をするには、取引と市場に関する知識と想像力が必要です。あとで後悔しない契約書にするためにもここのステップでの十分な検討が必要です。
逆に、おおよそ発生しえないリスクをこまごまと設定して、やたら長い契約書にするというのも必ずしも推奨されるものではありません。
バランス感覚が必要です。
論争を回避して円満に早く締結したいという事情
せっかくリスクをある程度リストアップできたのに、以下のような事情から相手方との契約交渉の議題として上程できないというパターンです。
• こんな話を持ち出すと、相手方が気を悪くするのではないか。
• 早く契約を締結して注文を取りたいので、時間をかけた議論はしてられない。
• 議題として上程しても、どうせ相手方が自己の力にモノを言わせて、当方に不利な条件になってしまうので上程しない方がましだ。
しっかりリスク管理ができた契約書にするには
上記事情にはそれぞれ一理あると思います。
しかし、実際にトラブルが生じたときに、あの時議論しておいたらよかったなあと思っても後の祭りです。そのような後悔をしないためにも、この契約交渉段階での検討が非常に重要です。
「後の喧嘩を先にする」という考え方が契約交渉では必要です。
必ずしも、「シンプル・イズ・ベスト」ではないんですね。